Are you ready ? 


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− Are you ready ? − GRAN TORISMO

 やってくる。静寂の夜を破り、疾走する朝が。激動の待つ今日が。
 強く美しいもの達が、凌ぎを削り競い合う。華麗に強かに、技の極みを持って相手をかわしてゆく。その高揚は何と表現すればいいだろう。

 追いかけている時のじれったさ。なかなか追い付かない、カーブの先に見えるのに、距離が縮まらない。喉を掻き(かきむし)りたくなる程に焦がれて焦がれて、狂いそうになる。
 並んだ時のしびれるような気持ち。捕まえた、もう逃がさない。詰めに詰めた距離はゼロになり、相手が愕然とする中で己の気持ちは裂けんばかりに膨れ上がる。
 そして、例えようのない快感。前へ出るという単純なことに狂喜する。騒がしい音と飛んでいく景色の向こうに光を見付け、共に闘う相棒とそこへ飛び込んでいく。

 危険と隣り合わせになろうとも、知ってしまった歓喜の世界からは抜け出せない。朝も昼も夜も、駆けていたいという衝動に支配される。気が付けば飢えていて、あの速度の中でだけ満たされる。
 眠れない夜、じっとしていられない朝。陽が昇らない時間から、静まった空気を吸い叫ぶ。

「誰よりも速く、走りたい」

 強い思いを抱き、走り続ける。相棒に、敵にさえ魅せられて「速さ」を求め続ける。
 止まらない。誰にも止められやしない。走れ走れ、思うまま欲しいままにどこまでも。果てなどない。最速を手にし、誰にもそこを譲らないまま夢を見続けたい。

 始まりの時をどれほど待ち望んだのか。(みなぎ)る力に突き動かされ、今にも踏み出してしまいそう。太陽に焼け付くアスファルトが陽炎を見せている。見上げる程の観客席には見分けられないくらい沢山の人がいる。日常と「ここ」が切り離されていく。
 この視線を浴びながら走る。この歓声を纏い、一番にチェッカーフラッグを拝む。早く駆け出したいとねだる相棒に呼吸を合わせ、赤い点滅を数える。
 血が沸いてくる。緊張が心地良い。……「お預け」の時が終わる。

 青と同時に俺達は高く吠えた。
 さぁ、戦いが始まった。速さの中にしか生きられない俺達は今、生のど真ん中へ突っ込んでいく。

−終−


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